過去数十年間、日本の紡績業は安価な中国製品に市場を奪われ続けてきた。その中で、佐藤繊維もまた、窮地に立たされていた。
いったいどうすればいいのか。悩んでいた佐藤に転機が訪れたのは、視察旅行で訪れたイタリアだった。紡績工場の責任者が言った一言に、佐藤氏は心を打たれた。
「私たちは単に糸を作っているのではありません。ファッションの基礎を作っているのです。」
ただトレンドを追いかけるだけでは中国の安価な製品には勝てない。自分の手で新たな文化をつくるぐらいのことをやらないと、生き残ることはできない。
そうはいっても、何か特別な技術を持っているわけでもなく、あるのは古くなった紡績の機械。他が持っているような最新の機械ではない。ん?他が持っている?
他社は最新の機械で、均質な糸を紡いでいる。
だったらウチは、古い機械で独創的な糸を紡ごうではないか。
かくして佐藤繊維の挑戦は、オバマ夫人のカーディガンへとつながっていくのである。